ふだんは、リビングのテーブルで勉強している彼だが、僕が帰宅し、食卓について彼の正面でビールなどを飲みはじめ「何だ、お前の字は汚いな」とか「そんな計算も間違えるのか」などと難癖をつけ始めると、愚息は「タタミの部屋」のこの机のほうへ避難する。
妻から言わせれば、子どもが宿題をしている前で酒飲みながら悪態をついている親父なんて、珍獣中の珍獣だそうで、ちょび髭をはやして千鳥足で寿司折りのお土産をぶら下げて帰ってくるおじさんよりメズラシイとのたまう。
まあ、そりゃそうだ。正論。
すわり机にむかってものを書いている姿は、なんとなく昔の作家みたいでかっこいい。「お前、文豪みたいだな。小説家だったら、壁に向かうんじゃなく、こっちに向いて執筆するともっとかっこいいぞ」などと酔っ払いはまた絡む。そんな言葉は無視して、愚息はもくもくと漢字の書き取りを続けている。
僕が小学生のころは、自分専用のそれを買ってもらったのがとってもうれしくて1日中机に向かっていても飽きなかった。デスクの上は自分だけの小さな宇宙、引き出しの中には僕以外の者には、価値を見出せないいろいろな宝物が保管されていた。勉強するふりをして、それらを時々取り出し眺めては、いろいろな惑星へトリップしていた。
結局、小学1年生のころ買ってもらった僕の学習机は、大学を卒業し、就職するまでその役割を果たし続けた。
それに引き換え、学習机に執着を見せない愚息。「使わないなら俺がもらうぞ」というと、きっぱりと「それはだめ」という返事。
1 件のコメント:
いよいよ再開されたのですね、うれしいです。
本の紹介、ありがとうございました。
あの本に書いた「東京生まれのビワ」、今年はじめてとうとう実をつけました。それもたくさん!まだ熟しきっていないので、食べてみてはいませんが、楽しみです。
学習机、おかげで私も思い出しました。自分の部屋がなかたので、机だけが唯一の世界だったのは同じです。
息子さんの机に向かう姿、様になってますねえ。
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