2019年4月30日火曜日

平成最後の日

今日は、平成最後の日だ。
30年ちょっと前、昭和最後の日、僕は何をしていたのか。
日記は残っていないけれど、ほぼほぼ覚えている。

 昭和最後の日は、昭和天皇が崩御した日。
だから、当然今日の平成最後の日と随分と雰囲気は違った。

 1989年1月7日のその日は土曜日だった。
朝6時33分、昭和天皇、崩御。

 世間は、昭和天皇の容体が重篤なものに陥った1988年秋から、とにかく「自粛ムード」であふれていた。テレビもお笑いもお色気もご法度な状況だった。
 わかりやすく言うと(一部の人にとってのことだが)、僕のお気に入り「週刊文春」の連載『淑女の雑誌から』もいつのまにか誌面から姿を消していた。

 テレビ自体が喪服を着て放送が流れてくるような雰囲気の中、午後のニュースで明日から平成になることが黒いスーツ、ネクタイに身を包んだ小渕官房長官から告げられた。
 そのニュースで、その日が「天皇崩御の日」から「昭和最後の日」というイメージに僕の中で変わっていった。

 僕は台風のとき、どうしても川の水位がどうなっているか見に行きたくなるタイプの人間だ。まあ、野次馬ということだ。
 
 一通り崩御のニュースを家のテレビで確認した後、「皇居に行かなければ」と当然のように考えた。野次馬だもの。
 そして、地下鉄に乗って皇居に向かった。なぜそこだったか思い出せないのだけれど、パレスホテルのラウンジで軽い食事をとった。多分、これも何らかの野次馬根性だったと思う。「パレス」という語感に反応したのだろう。パレスホテル全体は悲しみに包まれているという雰囲気はなかった。

 皇居には以前から設けられていた記帳台に列ができていたが、思ったより人は多くなかった。ときどき、玉石の上に土下座して頭を垂れている人がいたりすると、獲物見つけた!という感じのメディアの人間がその人に群がってカメラを回していた。そして、その様子を僕もカメラにおさめたりしていた、30歳の私。
 
 とにかく、思ったより人が少ないと感じた記憶がある。
 昭和最後の日が暮れてきた。独身で土曜で会社も休み、報道記者でもない僕ではあるが、野次馬なので新宿・歌舞伎町に行くことにした。2019年の今日だったら渋谷スクランブル交差点に足を向けたところだが、彼の地が若者の聖地になるには、サッカーワールドカップ初勝利の日まで待たねばならない。

 コマ劇場前の噴水広場には、重苦しい空気もざわついた雰囲気もなく、普段と変わりないたたずまいだった。沢山の待ち合わせの人間、ギターで歌う若者も。

 ギターを弾き歌っていた、癖の強くない若者に、ジャーナリストでもないただの30歳の僕が「君いくつ? 今日天皇が崩御したけれど、どんな思い?」と質問した。
 若者は「19っす。いつもここで歌っているけれど、天皇のことと俺とは全然関係ないっすよ」と答えた。今から思えば、とっても昭和なのだけれど、その時は「オー、現代のヤング。シラけてる」などと思った。

 そして野次馬に飽きた僕は、新宿の小便横丁(焼き鳥横丁)の端っこ、トンネルを越えた一番駅よりの、今は全く面影がない一角「七福小路」に存在していた酒席「もん」の扉を開けた。
 
 小説家、俳優、各種メディア関係、それと一般のサラリーマンも含めた雑多だけど、ちょっとひとくせある客が、「素人料理」と称する極上の肴を出してくれるママを慕って集まる、知る人ぞ知る名店だった。客としては、僕は若い部類だったと思う。

 そこで、「昭和最後のビールちょうだい」とか「昭和最後のおしっこに行ってくる」などと軽口をたたいて、一人酒を飲んだ。そして「昭和最後のおあいそ、お願い」などといったりして。なんだか正しいオヤジの「昭和最後の日のすごし方」だ。

 30年ちょっと経った「平成最後の日」僕の今日は、朝からクロスフィットに行って汗を流し、西麻布の「沢村」でパン買って、家に戻りコーヒーを飲みつつ、どのチャンネルもなんとなく浮足立つプログラムを流すテレビを妻とながめ、遅いランチをとった。

 昭和最後の日のことを思い出して、今は61歳になった僕だが、時間の使い方としてはオヤジ的に昭和の日のほうが正しかったな、と反省する気持ちになった。

 お!ここで、具体的に61歳と書いてみて、今ちょっと何か愕然とするものがあった。なんだろう。「30歳」と「61歳」、文字面で見てみると全く別の生き物だ。
 
 このごろ、嫌になるほど耳にする「平成とはどんな時代だったのか」について考えようという気はないけれど、30歳から61歳、自分は別の生き物になったのか、ということについて考えてみたいと思った、ような思わないような…。

落ち着きのない、野次馬であることには変わりはないことは、はっきりしているけれど。誰も興味を抱かない、僕の30歳→61歳のピリオドについて、深く考えてみたいと一瞬思ったとき、なんだか「平成」と自分とのかかわりが少し見えてきたような気がした。

平成最後の日Reebok CrossFit Heart & Beauty  15kgのダンベル2つ抱えて孤独の旅路




 
 
 


 

 







0 件のコメント: