2011年3月2日水曜日

焼酎とストローと、超能力

 作家・松兼功さんと約2年ぶりにお食事。松兼さんは、脳性マヒによる重度の障害を持つ。

 作家としてのデビュー作は「お酒はストローで ラブレターは鼻で」(朝日新聞社)。生まれながらの自身の障害と向き合い、様々なバリアと格闘しつつも、青春を謳歌する生活ぶりを描いた好著。刊行とともに大きな話題を呼びテレビドラマ化もされた。

 松兼さんとは長いお付き合い、かれこれ15年以上になるか。葉祥明さんとの詩画集「やさしさの引力」、エッジが利いた日比野克彦さん装丁デザインの「ショウガイノチカラ」の2冊を担当した。

 二人であちらこちらを旅して回り、酒場で杯を酌み交わした。その、松兼さんとパートナーのれなさんと、新宿御苑の居酒屋「炉庵」で再会。

松兼功・れなさん

 ふきのとうの天ぷら、美味しかったあ

「炉庵」は、「発達障害当事者研究」「つながりの作法」の作者・綾屋紗月さん、熊谷晋一郎さんご推薦の店。(熊谷さんは、松兼さんと同じ障害を持つ。昨年「リハビリの夜」で新潮ドキュメント賞受賞)

 「炉庵」は、料理が美味しくて、そしてお店全体のバリアフリー環境が整っている。だから、身体的障害を持たない人間も本当に落ち着ける空間になっているのだ。(障害者用トイレに入ると広々と気持ちいい、と感じるあれに近いと僕は思う)

 そんな空間での3時間あまり、楽しかった。新企画も何本か産声をあげそうな気配。

 ちょっと印象に残った話一つ。

 手が不自由なため、ストローで酒を飲む松兼さん。「ストローで飲むと酔いがはやくなるってホントですか」と言う質問をたびたびされるという。当然「僕はストローでしか酒を飲んだことがないから、比較できません」と答える。

 この夜もそんな話題になった。僕も、おふざけでビールをストローで飲んだことがある。確かにグラスから飲むより、味は苦く感じ、酔いも早く回りそうに思う。で、この夜は初めて芋焼酎の水割りを松兼さんのストローを奪い、チューっと吸ってみた。あれ、直接グラスに口をつけチビリとやるより美味しく感じる。

 「ビールと違って焼酎は、なんだかストローで飲んだほうがすっきり感じる!」と僕は感歎の声を挙げた。

 そしたら、松兼さん、大きく体をゆすりながら満面に笑みを浮かべ、「そうでしょ、そうでしょ、焼酎の場合はそうなんですよ」と言う。

 僕は、思った。
「あれ、このオトコ、違いがわかっているじゃないか、ありえないのに。超能力者に違いない、ちょっと焼酎呑みすぎの」
松兼さんからかすめとった、愛用のストロー2本

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