2011年2月23日水曜日

「すぐに忘れられちゃうんですよねえ」

 「すぐに忘れられちゃうんですよねえ」とその彼女が言った。
 職場における仕事の話だ。彼女は、僕より多分20歳以上年下の同業者。僕と同世代の上司に対する、まあよくある愚痴。
 いろいろと報告をして”考えておこう”と返事をもらっても、一向に指示が出てこない、ということらしい。
 僕は、「そうだねえ、色々な仕事抱えているだろうからねえ。俺も、なんでも忘れちゃう。だから、なるべく覚えているうちに、すぐに動くようにしているのだけれど。放っておくと、自分たちの時間の流れだと、すぐに1ヵ月2ヵ月たっちゃうからね」とこたえた。
 異論はあった。-そんなの昔からいっしょ。だから、何度もしつこくこたえを求め続ける。そして、ダメとはっきりいわれなければ、もう動いてしまう。そうしてはじめて、上司は本気になるのだから・・・-たぶん、一言では、上手く伝わらないと思ったので「まあ、自分のことも含めてとにかくすぐに動くしかないね」とだけ言った。
 「忘れられちゃう」ほうが仕事はしやすいときもあるんだよ。
 とにかく、フットワークだ。そして「打つべし、打つべし、打つべし」と帰りの電車の中で彼女に言いたくてもなぜか言えなかったことを心の中で反芻していたら、なぜか僕自身、元気が出てきた。うん、明日のために!
 ああ、これも、忘れちゃうかなあ。


ひねくれゆうちゃんの赤いかさ 4

 「おみやげといえばね、ゆうちゃんに会いたくなったのは、そのおみやげのせいなんだよ」とおばあちゃん。
 「え。なになに?」
 ゆうちゃんはドキドキして、おもわず電話に思いっきりくちびるをくっつけてさけんでしまいました。
 「ゆうちゃん、そんなに大きな声をだしたらみみがこわれてしまうよ。あのね、とってもいいものをデパートで見つけたんだよ。それを見つけたら、つい買ってしまってねえ。ゆうちゃんがとてもよろこびそうなものだったから」
 「ねぇ、ねぇ、ねぇ、おばあちゃん。なーに、それ、はやく言ってよ」
 ゆうちゃんのくちびるはますます電話にくっついていきます。
 「あのね、とってもかわいい赤いかさなんだよ。ピーマンとニンジンの絵がかいてあるの。おばあちゃんはそれをゆうちゃんにプレゼントしたくてね」
 おばあちゃんは、ゆうちゃんが電話に口をくっつけて大声を出すのをけいかいして、受話器からみみをとおざけて話しました。
 ぎゃくに、ゆうちゃんはうれしさのあまり、何もしゃべることができなくなってしまいました。
 「ねえ、ゆうちゃん。きこえてる?どうしたの?」
 おばあちゃんは、心配になってたずねました。
 「バンザーイ!!!」
 ゆうちゃんはありったけの大声を出してさけびました。
 おかげでおばあちゃんの右耳は、そのつぎの日までよく聞こえないほどでした。
                                  (つづく )

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