2008年4月30日水曜日

今月読んだ本

POPEYE物語 椎根 和 新潮社 本体1500円

 "シティ・ボーイのためのライフスタイル・マガジン”ポパイには、僕も大変影響を受けました.

 全盛期には実売数40万部を越え(何と返品率4・8%という号もあったという)この種の雑誌(隔週月2回発行)としては驚異的な売れ行きを示した。本書は、その発刊前夜から、その人気のピークに達するまでの編集者たちの熱い舞台裏を紹介している。

創刊号も保管してます。表2対抗扉に"Men's an an" とあり。


 本書によると、ポパイの前身は「メイド・イン・USA・カタログ」で、これは (今は亡き)『週刊読売・別冊』として発行されたとのこと。講談社かあるいは平凡出版から出されたはずだと勝手に思っていたが、ちょっと意外なこの事実とその経緯が冒頭に語られていて、大変興味深く読んだ。

 その「メイド・イン~」を当時かなりすかした(今ならイケてる? これも古いか)クラスメイトが読んでいるのを傍らで眺めていた。そして、彼がダウン・ベストなるものを着ているのを目撃し、仰天した記憶がある。「何で町なかで救命胴衣を着てるんだ!!」
 
  「ポパイ」は、”何が流行っているか”ではなくて、「いいかい、君たち、都会で楽しく生きいていくためにはこういった遊びをしなくてはいけないし、こんなものを着なければいけないのだよ。」という情報を先輩口調で教えてくれる雑誌であった。

 かっこいい先輩が教えてくれることだから、と僕らはそれを素直に受けとめた。ラコステのポロシャツは"アイゾット"でなければいけなかったし、少し前まで救命胴衣の友人に驚いていたくせに、デッキシューズを履いて通学をするようになった。当然、靴下着用は厳禁。

 「~と、あえて言ってしまうのだ」とか「こんなものほしかった」「これ、常識」などのポパイ的用語を使われてしまうと、僕らはああそうですかと従順にならずにはいられなかったのだ。その背景に、体育会的、というかかぎりなく体育会に近いスキー同好会のような雰囲気の熱血編集部の存在があったことがこの本を読んでよく理解できた。

 特集記事だけでなく、僕が特に楽しみにしていたのは、パズルと書評。毎号夢中になって迷路パズルを解いて、読者感想文をつけてプレゼント応募、ブラウン社製のトラベルウォッチなどいくつかのおしゃれ小物をゲットした思い出がある。

 「なぞの複数怪人フリートのMad Revew」と名づけられた書評欄には、いったいどういう基準で選んでいるの? と疑問を感じるほどの幅広い分野の書籍が紹介されていた。掲載された本を、少なくとも月に1冊は購入したと思う。

 このページで、村上春樹「風の歌を聴け」や椎名誠の「さらば国分寺書店のおばば」と出会い、二人の大ファンとなった。MとSという二人の"怪人"が対話形式で本の紹介をするのだが、これも当時、僕は一人の人間が二役で執筆をしているのかと思っていた。しかし、本書を読んで、はじめてタイトルどおり二人で書評していたことを知った。(そのうち一人の評者は本書の執筆者、椎根氏とのこと)

 家族でノースショアに初めて行ったときも、20年ほど前の「ポパイ」を引っ張り出しておさらいをした。ハレイワの町は、紹介されたときのまんま。ふた昔前「ポパイ」を読んであこがれていたその町で、息子と記事にあった「マツモトストア」のレインボー・シェイブを食べたときには涙がでそうになりました。

 まだバブルの頃、本書に登場する何人かの名物編集者(ライター)の方とお会いする機会があった。その頃は、活動の場を『ブルータス』誌に移していたが、やはり若いもんにやさしくて、モノ知りで、そして常識もある、すてきな方々でありました。女性誌の編集者たちにも「ブルータスのお兄さんたちってすごく面白い」ともてておりました。                                           なぜか、1942~43年前後生まれの人ってこういうすてきな感じの人が多い気がします。

 ずいぶん昔、なにかの集まりが明治通り沿い宮下公園のわきにあった名店「渋谷の幸ちゃん」で開かれた後、本書に名前が何度か登場する名ライターの方と、店から渋谷駅まで同道する機会があった。僕が『ポパイ』の大ファンで、編集部にものすごく憧れを抱いていた主旨のことを告げると、ぽつりと「うーん、でも、今はあのときのパワーはないよねえ」と少し寂しそうに、つぶやくようにおっしゃった。

 この本を読んで、改めてそのときのことを思い出した。本書で紹介されている"神話的"期間は丸5年、 若者の世界を変えるほどの媒体を作り上げるために、信じられないくらいの瞬発力と集中力が必要だったはず。5年間というのはそういう意味では驚くべき長さだったのではないか、というのが本書を読んでの最終的な感想。当時の雑誌クリエイターたちに脱帽です。

「この風にトライ」 上岡伸雄 集英社 本体1600円

  これは珍しい、いまどきのラグビーを題材にした少年向け小説。迷わず購入。元全日本代表候補だったラグビー選手が、人生を見つめ直し、小学校教師となって、いじめ、親との確執、お受験などの問題に向き合っていく。 

 ストーリーのところどころに、作者(本職は、小説家ではなくラグビー大好きの翻訳家で大学教授)のラグビーに対する熱い思い、教育に対する好ましい理念が垣間見えてくる。とにかく子どもにとってもわかりやすく楽しく読める本。

 教師が、生徒一人ひとりをきちんと見つめ、宮沢賢治を暗誦し、ラグビーを真剣にやれば大丈夫! というシンプルさがよい。クラスの父兄にたった一人だけラグビー好きがいる、というのもなんだか現実的。少年ドラマにして欲しいなあ。もちろん主役は、大八木淳史で。 

 「釧路捕鯨史」 釧路市総務部地域資料室 1600円 釧路市役所 

 釧路出張の折に購入。かつて日本一の捕鯨基地だった釧路、調査捕鯨の再開を機会にあの夢よもう一度、ということで編纂された資料集。

 経済的に疲弊している釧路の町を再び鯨で盛り上げようとの目的で出版されているので、捕鯨の歴史と鯨の生態が詳解されているというよりは、日本水産と極洋漁業の2大水産会社が捕獲量を競い合い、市の経済が活況を呈していた時を懐かしむことに多くのページが割かれている。

  それでも北ヨーロッパでは積極的な「捕鯨」はノルウェイ人でなく、バスク人によって9世紀頃から始められたことや、それよりはるか先にアイヌ人が紀元前7000年ごろから「捕鯨」をしていたことなどが本書から知ることができる。また、「調査捕鯨」により、ミンク鯨の第1胃袋を切り開き、大量のスルメイカや秋刀魚が摂餌されていることを確認、イカと秋刀魚の不漁はミンク鯨の増加に起因している、との記述もあり、僕の中ではっきりしなかった「調査捕鯨」の持つ意味も少し理解できた。

 一方で「ナガスクジラは、その体型の美しさからクジラのミス・ワールドといわれている」というチャーミングな記述もある。このミスワールド、現在はデンマーク・グリーンランドの先住民のみが年間19頭の捕鯨枠を持っているとのこと。

 いずれにしても、2002年から釧路港を基地に捕鯨調査が始められ、市場に鯨肉が並ぶようになったという。

 町おこしのため、「鯨家庭料理レシピコンクール」が開催され、写真で紹介されている。「鯨と食文化を語る市民の夕べ」が開かれ猪瀬直樹氏が食文化をテーマに基調講演をおこなったとの報告も。講演会の後に「くじらそば」「ローストクジラ」「クジラカツカレー」がふるまわれたというが、これは、うーむ。でも、地方の書店ならでは、こういった書籍に出会えるのは本当に楽しい。

「日本の生き物図鑑」 石戸 忠・今泉忠明 監修 2000円 講談社

 野原で見かける草花、鳥、虫の類のことで息子に結果的にうそを教えてしまうことが多い。この図鑑を読んで反省しきり。常識的な、ムクドリとヒヨドリさえトリ違えておりました。息子よ許せ。勉強し直しです。

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